WSD-F20
Development
Story

WSD-F20 開発ストーリー

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GPS開発編

WSD-F20の要ともいえるGPS機能は、 どのように生み出されたのか。
まさに総力をあげて取り組んだ、 開発の舞台裏に迫ります。

合い言葉は「サッとみられるスピード感」。

新規事業開発部 今村 圭一新規事業開発部 今村 圭一

—— WSD-F20最大の特長であるGPS機能。時計単体にGPSを搭載するに至った経緯について、仕様設計担当の今村さんに話を伺いました。

今村: ご存じのように、GPS機能は衛星から受信した位置情報をもとに、地図上に現在地を表示するというもの。WSD-F10では、この機能をスマートフォンのGPSと連動させることで実現していました。しかし、アウトドアでは、電波圏外や水没の心配などにより、スマートフォンが使えないシーンも少なくありません。そこで、WSD-F20では時計単体にGPSを搭載。さらに、地図データのオフライン利用にも対応することで、スマートフォンの電波が入らない場所をはじめ、より多彩なシーンでの活用を可能にしました。

—— 開発にあたって、コンセプトのようなものはあったのでしょうか。

今村: イメージとしては、大自然の中にいる自分の姿が、そのまま地図上に反映されているような、いわば記憶と記録の一致が実感できる機能。今まさに体験していることとリアルタイムにシンクロするライブ感のある機能を目指しました。GPSを搭載することでアウトドアギアとしての実用性を追求しながら、その先にあるエモーショナルな価値をカタチにする。今までにないアウトドア体験を提供するという意味では、コンセプトはWSD-F10と同じ。WSD-F20では、その実用性や楽しさをさらに高めることを目標にしました。

開発当初のキーワードは、ずばり「スピード感」です。アウトドアで使用するGPS機能には、どんな場所でも、どんな動きのなかでも、現在地をすばやく正確に表示できるパフォーマンスが求められます。しかも、スマートフォンで日常的に地図機能を使用する人が多い今、それより見劣りする性能ではダメだという思いがありました。取り出す、操作する、表示を待つというのではなく、見るだけでいつもそこに正しい位置が表示されているという感覚。「スピード感」という言葉には、あらゆる状況でストレスなく使えるという意味が込められています。

具体的には、基本となるGPS電波の受信感度をはじめ、位置確認時の表示速度、地図上への現在地および移動軌跡の表示精度などを開発目標として設定。さらに、電力消費の激しいGPSを安定駆動させるための省電力化も、大きな課題のひとつとして取り組みました。

—— 実際の開発作業はどのように進められたのですか。

今村: WSD-F20に搭載するGPSを開発するにあたり、まず事業部内にGPSワーキンググループというプロジェクトチームを立ち上げました。そこで、ハード、ソフト、評価などを担当するメンバーが定期的に集まり、初期のアイデア出しから技術的な課題、解決の手段などをざっくばらんに話し合い、全体像を共有したうえで、それぞれの作業に取り組みました。

チーム内では、意見が対立することも度々ありましたね。GPSの開発には、アンテナの形状や基板のレイアウト、制御プログラムなど、多くの要素がかかわり、それらひとつひとつが密接に関係しています。アプリやOSとの関連性も高い。ひとつ改善すると、その他に不具合が出ることもしばしば。まさに、あちらを立てれば、こちらが立たずといった状態です。しかし、メンバーひとりひとりにはプロのエンジニアとして自分の責任を果たすべき領分がある。中途半端なものは作りたくないという思いがあります。そんななか、メンバー全員が互いに譲らず、かつ尊重しあったからこそ、偏りのないバランスのとれた性能が達成できたのではないかと思います。

—— スタンドプレーとチームプレーの融合が、製品開発によりよい相乗効果を生み出したのですね。

「暗中模索」から「感度良好」へ。

新規事業開発部 勝田 寛志新規事業開発部 勝田 寛志

新規事業開発部 瀬尾 宗隆新規事業開発部 瀬尾 宗隆

—— 様々な技術的課題に立ち向かう開発陣。ハードウェアの開発にはどのような苦労があったのでしょうか。アンテナの開発に携わった勝田さんと、基板の実装設計を担当した瀬尾さんに話を聞きました。

勝田: アンテナは、いわばGPS機能の根幹となるもの。速度も精度も、このデバイスの性能に大きく左右されます。時刻修正用として時計での採用実績はあったものの、今回は使用目的が異なるため、ほぼゼロからの出発でした。しかも、WSD-F20はアウトドアでの使用が前提となるため、あらゆる状況を想定した受信性能が求められます。越えるべきハードルは予想以上に高かったですね。

たとえば、使用する場所。尾根や山の頂上など、空が開けた場所では衛星を捕捉しやすいのですが、山林に囲まれた谷や川筋では受信しにくくなる。こうしたことを踏まえて、WSD-F20ではアメリカのGPSに加えて、ロシアのGLONASS、日本の準天頂衛星「みちびき」に対応したアンテナを開発。より多くの衛星からの信号をキャッチすることで、安定した位置測位を可能にしています。

また、アンテナの姿勢や向きも、受信感度に関わる重要な要素のひとつ。アクティビティ中、ユーザーは様々な動きをします。止まっているか、歩いているか、走っているか。自転車やカヤックに乗っている場合もある。当然、時計は下を向いているときもあれば、上を向いているときもある。どんな状態でも安定した受信感度を確保するためには、どうすればよいか。アンテナを大きくするのが一番なのですが、時計サイズに仕上げるにはスペースやバッテリーの制約がある。素材、形状、指向性など、協力会社と何度もやりとりを繰り返したのはもちろん、実装する場所についても担当部署と密に連携をとり、試作・検証を行いました。

—— 実装面ではどのような取り組みが行われたのでしょうか。

瀬尾: そもそもGPSの信号はたいへん微弱なもので、基板の金属パーツや電池、さらには身につけている人から発せられる電磁波の影響を受けやすいという性質があります。様々なノイズのなかからGPSの信号を正確に読み取るためには、様々な要因を考慮する必要がある。ひとことでGPSを搭載するといっても、アンテナやICなどのパーツをケース内に収めただけで、すべてが丸く収まるわけではないのです。

アンテナ単体だと問題がない場合でも、いざ組み込んでみると受信感度に不具合が出る。そのたびにパーツの配置を変えたり、アーシングなどノイズを遮断する対策を施したりと、試行錯誤の連続でした。影響を及ぼすパーツ同士を離すと配線が長くなって、それだけ基板が大きくなるという問題もあり、基板の設計は三次元のパズルを解くような感覚でしたね。WSD-F10の際、限界まで切り詰めて実装したにもかかわらず、サイズはほぼそのままでGPS機能を新たに追加するわけですから、すんなりいくはずがありません。

試作ができると、実地検証。勝田と二人で両腕に試作機を何本も巻き付け、重さが数キロもある測定装置をかつぎ、街中や山の中を歩き回りました。高尾山に出向いたときは、一般的な1号路ではなく、沢沿いを歩く6号路で山頂まで登りました。沢沿いは尾根に比べて上空の視界が悪く、受信感度のテストにはもってこいなのですが、歩くにはつらいコースでもあります。それでも、重装備ながらコースタイムより早く頂上に着いたのを覚えています。

—— エンジニアの仕事とは思えない、まさに体力勝負の開発ですね。

「性能重視」か「省電力重視」か。

新規事業開発部 坂本 昇平新規事業開発部 坂本 昇平

新規事業開発部 彦坂 直孝新規事業開発部 彦坂 直孝

—— 続いて、ソフトウェア開発担当の坂本さん、評価担当の彦坂さんに話を伺います。GPS開発にあたり、どのような点に注力されましたか。

坂本: WSD-F20にGPSを搭載するにあたり、われわれソフト開発部門では、GPSチップを制御し、位置情報を地図アプリなどへ渡すためのプログラミングを行いました。

WSD-F20は「スピード感」というキーワードの通り、地図を立ち上げると素早く現在地が表示されますが、このような“瞬間表示”を実現するためには、測位性能と省電力を同時に追求する必要があります。

そこで、まずはGPSの挙動を研究するところから着手し、試作・評価を行いながら、GPSチップの起動、受信、データ解析などの動作を安定化。そのうえで、消費電力を抑えるための対策を施すという開発プランを立て、最終的な目標である測位性能と省電力の両立を目指しました。

具体的には、従来比1/4(カシオ調べ)の低消費電力GPSチップを搭載し、使用機能ごとに測位間隔を可変運用。無駄な動きをできるだけ少なくし、効率的な電力マネジメントを行うことで、アウトドアでの使用に十分な省電力化を実現しました。その際、OSに備わった省電力機能を最大限に発揮するため、ドライバーなど下回りのソフトウェアおよびハードウェアの仕様や設定をAPIにあわせて細かく調整するなど、カシオ独自となる様々な工夫を盛り込んでいます。

GPSのパフォーマンスを重視しながらも、時計として当たり前の駆動時間は確保したい。性能と省電力という矛盾する2つの要素を同時に追求するのは、手間も時間もかかりましたが、それだけの価値はあったと思います。

—— 一方、評価ではどのような作業が行われたのでしょうか。

彦坂: フィールドテストなどを通じてGPS機能の性能評価および動作確認などを行い、各担当にフィードバックするのが主な役割です。先に話のあったアンテナ開発担当のテストは受信感度を確認するのが主な目的ですが、われわれの評価では、測位精度の評価に力を入れて取り組みました。

GPSの性能を評価するには、定点データと軌跡データを測定する方法があります。定点データは、静止した状態で測位を行い、一定時間内の表示のばらつきを表したもの。精度と確度の観点から評価・分析を行います。実際のテストは、受信状態のよい屋上で毎日のように実施。GPSの精度は天候などに影響を受ける場合があるため、できるだけ多くのデータを収集する必要があったのですが、冬場の寒い夜などに行うテストでは、まるでこちらの忍耐度まで試されているような気分でしたね。

また、軌跡データは、一定のルートを移動した際、その動きを正確に追尾しているかどうかをチェックするためのもの。実際の使用状況を想定して、山間部などでフィールドテストを行いました。その際、歩きだけではなく、自転車などでも測定。動きの速いアクティビティをしていても、正確な移動軌跡が表示されるかどうかテストしました。

不具合が見つかればすぐに報告。調整を経て、再度テストに臨むという繰り返し。もちろん、消費電力の検証もしっかりと行います。そんななかいつも心がけていたのは、開発段階、調整内容に応じて適切な評価方法に変えていくこと。目の前の問題点をひとつずつクリアにし、じりじりと根気よく改善を重ねることで、性能を上げていきました。お客様にどんなふうに使っていただけるのか、今から楽しみです。

—— アウトドアに特化したスマートウォッチとして、フィールドでの実用性を徹底的に追求したWSD-F20。そこには、エンジニアとしての使命感、開発者ひとりひとりのものづくりに対する信念が込められているのですね。これからの地図は「取り出す」のではなく「身につける」時代。WSD-F20を使うことで、アウトドアの楽しみ方が、ますます広がりそうです。